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労働者は事業主に比べて、相対的に弱い立場にあります。私たちは毎日生きていくために一部の資産家を除いては毎日働かなければなりませ ん。事業主は自らの条件に適った労働者を時間をかけて選りすぐることが可能ですが、労働者は生命の維持という究極の目的のために、今、働か なければならず、そのために就労先である会社等を選ぶ余裕がありません。このことが労働者の立場を弱めています。 他方、労働も、市場主義経済では、市場を通じて売買される財ですから、需要と供給がバランスする点で価格が決まります。このとき労働者は労 働を供給する側ですが、好景気で需要が旺盛なときは、価格=賃金が上昇しますが、不景気で需要が小さいときは価格=賃金が低下します。労働 を市場原理に任せておいた場合、価格である賃金は時として、生命を維持できる限度以下にまで下がることもあります。大恐慌などによって大量 に巷に失業者が溢れた状態は労働に価格がつかない状態です。 こういった状態では人は生活の糧を得ることができません。しかも人は、単に生きているのではなく、人として生きているので、人として最低限の 尊厳ある生活を営みたいと願っています。そして国は、国民が人として最低限の尊厳ある生活を営むことができるように、法律を整備し、施策を講 じる義務を負っています。 このような事情から、労働については、労働者を保護する目的で、多くの法律が制定されています。通常はそうれらの法律を総称して「労働法」と 呼んでいます。 労働法で、私たちに一番身近な法律は、労働者と使用者との間で労働契約を締結するときに、使用者が最低限満たさなければならない労働条件 の基準を定めた、労働基準法です。労働基準法では、国籍や社会的身分の相違を理由とする労働条件等に係る差別の禁止、女性を理由とする 賃金差別の禁止、強制労働の禁止、賃金の支払われ方、労働時間の上限、休日、残業・深夜労働、年次有給休暇、年少者や妊産婦の働かせ 方、等々使用者が労働者を雇い入れるときに満たすべき労働条件の最低基準が法定されています。労働基準法は社会法と呼ばれ、この法律に 違反する使用者等は、最悪の場合、懲役や罰金などの刑事罰を受けることになります。 労働法には、他に、労働したことが原因で怪我をしたり病気になったりしたときに、治療費や休業補償、年金などの制度を以って労働者の生活を 保障する労働者災害補償保険法、事業主が労働者を雇い入れたときに労働災害を防止するために果たすべき危害防止の基準を定めた労働安 全衛生法、賃金の最低基準を定めた最低賃金法、失業したときに再就職までの間の生活を保障し、かつ再就職を促すための職業訓練の労働 者支援等を定めた雇用保険法、女性であることや女性であることに起因する差別を禁止して男女の均等な雇用の機会や待遇の確保を目的とし た男女雇用機会均等法、労働者が育児や介護を円滑に行えるよう、事業主が講じるべき措置等を定めた育児介護休業法などがあります。ま た労使間における労働契約の合意の原則や労働契約の基本的事項を定めた労働契約法は労働条件の変更や、解雇、雇止め等の効力の判断 基準を明示しています。その他にも労働者派遣法、職業安定法、パートタイム労働法、公益通報者保護法等の労働法の範疇に含まれる法 律があります。労働組合法や労働関係調整法は労働者一人一人の力を結集して集団で事業主と対等な立場で交渉することを促す法律です。 労働法のうち、労働基準法は労使間の労働条件における使用者の義務、労働者の権利を定めた法律ですので、特に大切な法律です。
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