先日二つの労働審判手続で調停が成立した。 二つとも、私が依頼を受けた個別的労使紛争事件で、共に労働局のあっせん申請が打ち切られたものだ。 一つはその後福岡市内の弁護士さんにお願いをして労働審判手続申立の代理人になっていただき、もう一つは私が、サポート、をして本人申立を 行った。 労働審判手続をお願いした弁護士さんは、福岡県内でも数少ない、労働者の依頼に応えてくれる先生で、何十件という労働審判を経験してこられ ている。 紛争解決業務を受ける場合、どの士業でも共通だが、業務開始時にまず着手金を申し受ける。そして業務終了時に経済的利益に対して、その一 定割合を成功報酬として申し受ける。 弁護士は、士業の中でも最も広範に代理権が認められているから、当然ながらそれだけに着手金や成功報酬といった料金が高い。 しかしながら、私が業務を引き継いでもらったその弁護士さんは、労働者からの依頼については、着手金や成功報酬については低く抑えているよ うで、あまり儲けにはならないと言われていた。 実際着手金の額は、さすがに私のような特定社会保険労務士に比べれば、高くはなるものの、他の弁護士さんの設定されている額と比較する と、感謝したくなるような額だった。 私は、依頼人がその弁護士さんと打合せをするときには必ず同席し、労働審判手続期日でも、その弁護士さんの計らいで、利害関係人ということ で、裁判所に傍聴許可を願い出ていただき、傍聴を許可され、全期日において傍聴をした。 この労働審判は第3回目期日までもつれて、弁護士さんは審判になるのではないかと若干心配されていたが、何とか調停が成立して紛争を解決 することができた。 私は、実は以前にも依頼人を、サポート、して労働審判にかかわったことが数回あるのだが、今回の弁護士さんの労働審判の進行の手法を間近 に見ることは大いに勉強になった。 特に、相手方からの答弁書が届いて、その答弁書の一文一文の内容を依頼人に確認してゆき、依頼人が曖昧な回答をすると、厳しい口調で「内 容に一部でも誤りがあるのなら、まず、いいえ、と答えなさい」と指導していたのは大いに参考になった。その弁護士さんは通常は温和な顔をされ ている。 また、審判官などからの質問には手短にはっきりと事実のみを断定的に答えるようにと指導していたのも参考になった。 交差点での出会い頭の衝突事故の場合、一方が「青信号で進入しました」と答え、もう一方が「青信号で進入したと思います」と答えると、「思い ます」の方が赤信号で進入したのではないかという疑いをかけられるのである。 もう一方の、本人申立の労働審判は、申立書の作成を私が、サポート、した。 申立書の作成はどうしても専門的知見が要求されるので、素人に作成は難しい。 労働審判手続申立書にせよ、労働局のあっせん申請書にせよ、結局要件事実をしっかりと整理することに尽きるのであるが、そのためにはどの法 律の要件を満たす事実が必要なのかということが理解できていないといけない。 そして、ある認定された事実が法的にどう判断されるかについて迷いがある場合には、過去の裁判例が役立つ。 特定社会保険労務士として、労使紛争解決業務に携わっていれば、事実認定や法的判断の枠組みについては理解できるようになるので、実は 労働審判手続の、サポート、はそう難しくはない。 私は、労働局にあっせん申請を行う場合には、定型のあっせん申請書のほかに理由書と証拠説明書に証拠となる書証などを添付して提出するよ うにしている。 これは、あっせん手続が打ち切られた場合でも、次のステップに即応できるようにしておくのと、弁護士に業務を引き継いでもらうときにも、あっせ ん申請時に提出した書類等を弁護士にそのまま渡せば、弁護士は労せず労働審判手続(或いは訴訟手続)業務に取り掛かることができ時間もそ れだけ短縮されるからだ。 あっせん委員によっては、あっせん段階ではきちっとした証拠など必要ないという考えの方もおられるようであるが、特定社会保険労務士としては 労使紛争解決のあっせん代理だけではなく、専門家としてトータルでコンサルティングをする必要があるのであるから、専門家としての仕事をしっ かり果たさなければならない。 労使紛争におけるコンサルティングは、事実を確認して、当事者としてどのような法的な判断に基づいた主張が可能かを検討し、紛争解決のプラ ンを立て、プランに従って実際に実行し、代理できるところは代理して、サポートすべきところはサポートする、そして紛争を解決させる。ここまでし なければ報酬は得られない。 あっせん代理業務に止まるようでは、専門家としてのコンサルティングとはいえない。 ところで、本人申立の労働審判、私は労働審判期日に傍聴を許可してもらおうと書記官にお願いしたのだが、相手方の代理人弁護士が、私の傍 聴に同意しなかったので、傍聴が許可されなかった。 仕方なく、私は審理中は一人で廊下の長いすに座って、依頼人がラウンドテーブルのある部屋から出てくるたびに進捗状況を確認して、指示を与 えた。 特定社会保険労務士には、労働事件に係る簡易裁判所での代理権を認める方向にあると聞くが、簡裁での代理権が認められた暁には、特定社 会保険労務士に限っては労働審判の許可代理も認められるように、最高裁判所も検討してほしいものだ。 ちなみに、本人申立の労働審判、第2回期日で調停が成立した。
無断転載・複製禁止 社会保険労務士おくむらおふぃす |