不当解雇
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解雇は、労働基準法や男女雇用機会均等法などの公法で解雇が禁止されている場合に、これに該当する解雇を行なったときには当然解雇無効になるほか、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効と判断されること。
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雇用契約の終了
解雇とは労働契約の終了の一つの形態で、労働者の意思に反して使用者の都合により使用者が一方的に労働者との労働契約を解消することをいいます。労働契約の終了の形態は解雇の他に退職があります。
退職は、就業規則等により定められたある一定年齢に達したことをもって労働契約が終了する定年退職や、労働者の私傷病等により休職が長期化し就業規則等により定められた休職期間を過ぎても職場復帰が見込めない場合の退職などがあり、これらは労働契約の内容として就業規則等で定められている、一定の要件に該当する事由により、当然に労働契約が自動的に終了するということになります。
使用者による労働者への退職勧奨に労働者が応じた場合は、会社都合による労働契約の合意解約(会社都合による合意退職)となります。
労働者が、自己の都合により退職願を提出して労働契約を終了させることを、一般に自己都合退職といいます。厳密に言えば、これは労働者からの労働契約の解約の申し込みと、会社のその承諾ということになりますから、労働者都合による労働契約の合意解約ということになります。
なお、期限の定めのない労働契約や、1年を超える有期労働契約における勤務期間1年超の場合には、労働者はいつでも労働契約を解約することができ、労働者がした退職の意思表示を会社は妨げることができません。
解雇の自由
そもそも使用者は労働者を自由に解雇できるのでしょうか?この問いに答えてくれるのが民法627条です。
民法627条によると、期間の定めのない雇用契約は使用者労働者双方とも自由に雇用契約の解約の申し入れをすることができます。
労働者の場合、期間の定めのない雇用契約(または1年を超える有期労働契約を締結している場合には勤務期間が1年を超えている場合)を解約しようと思えば14日前までに、その申し入れをすればよいことになっています。
使用者の場合は、労働基準法第20条によって30日前までに解雇予告をするか、解雇予告をしない場合には当日から解雇日までの日数を30日から控除した日数に1日あたりの平均賃金を乗じた額を解雇予告手当として支給することによって、解雇できることになります。
但し、労働者の責めに帰すべき重大な事由による解雇の場合、労働基準監督署長の認定がある場合には即刻解雇できます。
解雇制限
以下の@,Aに該当する労働者は労働基準法などの公法により解雇が制限されます。
@業務上負傷しまたは疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間。
A産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)にある女性で休業を請求した者。及び産後8週間以内にある女性。
また解雇の理由が以下の@〜Gの場合には公法上解雇が強制的に無効となります。
@国籍、信条、社会的身分を理由とするもの。
A公民権を行使したこと、公の職務遂行を理由とするもの。
B監督機関に対する申告を理由とするもの。
C女性であることを理由とするもの。
D女性が婚姻し妊娠し出産しまたは出産に伴う産前産後休業を取ったことを理由とするもの。
E育児・介護休業を取得したことを理由とするもの。
F労働者が労働組合員であるかまたは労働組合に加入しまたは労働組合を結成しようとしたことを理由とするもの。
Gその他、法律で解雇等不利益な取り扱いが禁止されているにも拘らずそのことを理由とするもの
不当解雇とは−解雇権濫用法理−
以上の公法上の制限をクリアして解雇に関する所定の手続きを満たせば、使用者は労働者を自由に解雇できることになります。しかし実際には、使用者は労働者を簡単に解雇することはできません。
会社にとっては比較的代替性のある生産手段の削減或いは交換に過ぎない解雇は、労働者にとっては、代替性に乏しい生活の糧を得る手段である労働の消失という極めて重大かつ深刻な問題である以上、会社の都合による解雇は容易に認められるものではありません。
そこで、民事上(私法上)の過去の裁判例は、権利の濫用という概念を用いて「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められない解雇は、権利を濫用したものとして、無効とする」。という解雇権濫用法理という判例法理を確立しました。この解雇権の濫用に該当する解雇を一般に,不当解雇,といっています。
解雇権濫用法理は、平成16年1月の施行の改正労働基準法第18条の2によって条文化され、更に平成20年3月施行の労働契約法第16条に移行して、解雇の効力の有無を評価する際の要件を提供しています。
労働契約法第16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
解雇理由は就業規則の絶対的記載事項です。したがって就業規則に記載されていない理由による解雇は原則としてできません。
しかし、裁判例では、就業規則の解雇理由は例示的に列挙されているものであり、就業規則の解雇理由にない理由による解雇が認められないものではない、という判例が多くを占めています(これを「例示列挙説」といいます。)。
労働者の立場としては、会社が就業規則に解雇規程を設ける場合には、解雇規程にない理由での解雇は、会社として行わないという労働契約が成立しているものとして、解雇事由として挙げられている事実が、就業規則の解雇規程にある理由に該当するか否か、厳格に検討すべきです(これを「限定列挙説」といいます。)。
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